東京地方裁判所 昭和54年(ワ)1988号 判決
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【判旨】
一請求原因一の(一)ないし(四)及び同二の事実については、賃貸された土地の範囲が本件土地全体であつたのが本件一五の土地だけであつたのかの点を除き、当事者間に争いがない。
二そこで、右の点に関し、まず原告が主張する請求原因三(一)(1)ないし(6)の事実の存否について検討するに、<証拠>を総合すると、請求原因三(1)ないし(4)及び同(6)の事実が肯認されるほか(但し、同(1)の大正三年当時の土地の状況、同(2)のうち西武鉄道の軌道が開設され、亡八五郎が原告主張のごとき交換の準備を進めていたが、結局、実現されなかつたこと、同(4)の原告主張の建物が建築されたこと、(6)の地番変更が行われたことについては、争いがない)、これに関連する事実として、
(イ) 右のとおり旧二〇七九番及び旧二〇七七番の土地は、亡八五郎が所有していた土地であるが、昭和二五年七月八日、同人が死亡したため、その相続人である訴外辰五郎、同なつ及びその他の相続人らがこれを相続し、昭和二六年六月一日には、訴外辰五郎が同人自身兼その他の共同相続人の代理人として原告と本件土地全体を対象とする本件賃貸借契約を締結し、以後、原告がこれを原告主張の建物の敷地としてその主張のごとき状態で使用、占有していたこと(右占有状態は、少なくとも昭和四六年七月に原告主張の建物の一部が焼失するまで継続していた)、
(ロ) しかるところ、その後、亡八五郎の相続人間で協議が行われた結果、本件一五の土地は訴外辰五郎が、本件一三、一四の土地は訴外なつが、それぞれ所有することになつたのであるが(争いがない)、被告は、本件賃貸借契約が締結されてから約一〇年後の昭和三六年一一月二日、本件一五の土地の北側にある本件一二の土地を訴外吉田よしから買受けると同時に、右当時訴外吉田が訴外なつから賃借していた本件一三、一四の土地の一部すなわち右一二の土地の西側にある部分の賃借権を譲受けたこと、
(ハ) その後、被告は、昭和四〇年七月九日、本件一五の土地の所有者であり訴外なつの代理人を兼ねた訴外辰五郎の交渉の結果、同人らより本件一三ないし一五の土地を買受け、同時に本件土地の賃貸人たる地位を承継したこと、
(ニ) しかして、被告は、右昭和三六年及び同四〇年当時、本件土地が前示のとおり原告主張の建物の敷地として利用されていることを承知して右土地を買受けたのであるが、右昭和四〇年の売買の際、本件土地には原告主張のごとく公道部分が含まれていることを知つたことから、原告から本件土地の賃料を受領することを拒否していること、しかし、原、被告間で賃貸土地の範囲について明確な取決めがなされたことはないこと、
以上の事実が認められる。
原告は、訴外辰五郎が交換申請を行つた結果、これが受理され公道部分も同人らの所有するところとなつた旨主張するが(前記(5)の事実)、これを認めるに足る証拠はない。
一方、被告らは、本件一三、一四の土地はその全部が訴外吉田に賃貸されていたものであり原告に賃貸されたことはない旨主張し、被告里水理火本人尋問の結果中には、被告らの右主張にそう趣旨の供述部分が存するが、前掲阿出川証人の証言や原告本人尋問の結果と対比するとたやすく採用しえない。
三そこで、以上に判示した事実に照らし、原告がその主張のごとく本件土地全体について賃借権を有しこれを主張しうるものであるか否かについて考えるに、まず、原告が訴外辰五郎と本件賃貸借契約を締結した当時、それが本件土地全体をその賃貸の目的物としたものであつたことは明らかであるというべきである。
しかして、右賃貸借契約における賃貸人たる地位は、被告が本件一三ないし一五の土地を譲受けた際、これとともに被告に承継されたものというべきところ、本件土地の中に一部公道部分が含まれていることは前示のとおりであるが、被告が右賃貸人たる地位を承継するにあたり右公道部分を賃貸の対象地から除外することに合意したというような事情でもあれば格別、かかる事情の認められない本件においては、本件土地全体を対象とする本件賃貸借契約がそのまま被告に承継されたことになるというのが相当である。
しかるところ、被告は、仮に、そうだとしても、本件一三の土地に関する賃借権は対抗要件を備えていないのであるから、原告は右部分に関する賃借権をもって被告に対抗することはできない旨主張するところ、弁論の全趣旨によれば、本件賃貸借契約に基づく賃借権が登記されたものでなく、原告主張の建物が本件一五の土地上にのみ存し本件一三の土地上に存するものでないことは、原告の自認するところであると認められるうえ、前掲乙第四号証によれば、右建物は本件一五の土地上に存する建物として登記されていることが明らかであり、右事実に照らすと、本件一三の土地に関する賃借権がいわゆる対抗要件を具備したものでないことは、被告主張のとおりであるというべきである。
しかしながら、原告は前示のとおり本件土地の周囲に生垣をつくるなどして本件土地を原告主張の建物の敷地として使用、占有していたものであり、本件一三の土地も右建物の敷地の一部として利用されていることは外観上明らかであつたと認められるうえ、被告も現地における右利用状況を承知し、これを承知のうえで本件一三ないし一五の土地を譲受けたものであると認められることに徴すると、被告が右対抗要件の欠缺を理由に本件一三の土地の賃借権をもつて対抗できないというのは、信義則上、許されるべきことではないというのが相当である。
(上野茂)